島田荘司 / ネジ式ザゼツキー

ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

急に思い立って久々に御手洗シリーズを読んだのですが、相変わらず面白いですね。

ある種の古典と言っても差し支えないでしょうあの「占星術殺人事件 (講談社文庫)」から始まる御手洗シリーズですが、自分はあまりこのシリーズの良い読者ではなく、かなり適当な順序でいくつかの作品を読んできています。この作品はシリーズの中では比較的新しい方で、なぜか御手洗潔脳科学者になっていたりワトソン役の石岡が少しも出てこなかったりと、シリーズの初〜中期しか知らない自分としてはかなり面食らってしまう要素だらけでしたが、この作品の内容にもまた負けず劣らず面食らってしまいました。
脳科学者の御手洗潔が、エゴン・マーカットと名乗る男性のカウンセリング(?)を行うシーンから始まり、なぜ彼がカウンセリングを受けることになったのか、その症状や背景が少しずつ詳らかにされると共に読者に対して叩きつけられる謎の作中作「タンジール蜜柑共和国への帰還」。エゴン・マーカットが執筆したというその童話とも幻想小説ともつかぬ摩訶不思議な短編から少しずつ滲み出てくる謎、そして善からぬ事件の香り……。それらの断片を御手洗潔が拾い集め、繋ぎ合わせることで失われた過去を取り戻す、というのがこの作品の大まかなあらすじです。
読み終えてまずは、作者の発想力と構成力にただ脱帽するのみでした。冷静に考えてみるとかなり突飛で現実離れしたエピソードなのですが、自分が読んだ限りでは大きな矛盾点を残すことなく、○○ダニット*1を見事に消化しきっています。また、本書を手にとってみたら分かると思いますが、分量としてはなかなかの量がありまして、にも関わらず作中では決して事件がボコボコ起こっている訳ではありません。この作品の根幹を成す謎は一点に集約されるのですが、その一つの謎の解明だけを軸にしながらも、自分は飽きることなく読み進めることができました。実際のところ、事件の性質が性質なので解決編の半分以上は電話越しの会話文が占めているというかなり歪んだ構成だったりするのですが……。なので、シリーズ愛好者の中には存在するであろう御手洗萌えや御手洗×石岡ハァハァな皆さんにとっては物足りなさがあるかもしれませんね。それでもクライマックスでは感動的なシーンもあったり*2と、自分としてはベテランの力量を十二分に味わうことができて満足です。またシリーズを漁りたくなってきましたが、来年はこのベテランこと島田荘司による大河ノベルが待ち構えているんですよね。現在進行形で西尾維新清涼院流水が突っ走っているこの企画ですが、名手がどんな驚きを提示してくれるのか、この作品を読んで期待が更に高まってしまったのでした。

*1:○○にはハウやホワイやフーやら、色々と入ります

*2:やっぱり自分は○○ネタに弱いんだなと再認識しました